- 前回は知的財産権の分類の1つである産業財産権について解説しました。
産業や経済に関する新しい発明や独創的なデザイン、固有の商品名などの権利を産業財産権と言います。
また、産業財産権は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権に分類され、日本では一番最初に発明した人ではなく、一番最初に出願した人に権利が与えられる先願主義を採用しているという説明もしました。
本日は、知的財産権の分類のうちのもう1つである著作権について、詳しくお伝えいたします。
①著作権とは
- 著作権とは、学術的または芸術的な創作した作品(著作物)とその作者(著作者)を守るための権利です。
著作物といってもいろいろありますが、代表的なものでは、小説、新聞記事、論文、音楽、振り付け、絵画、漫画、建築物、映画、写真、動画、コンピュータプログラムなどがあります。
知的財産の動画でもお話ししましたが、違法にコピーされた漫画をインターネット上に公開し、誰でも見ることができるようにした「漫画村」というサイトが摘発されました。著作者に無断で複製をおこなって作品を公開すると、週刊誌やコミックの売上といった本来得られるはずの金銭的利益を得ることができなくなります。
著作権は、このような著作者が損害を被る行為を禁止し、著作者の権利を守ることを通して、文化を発展させることを目的としています。
まず著作権の特徴は、誰にでも与えられるということです。例えば、美術館に並ぶような価値の高い絵画であっても、幼稚園生が描いた絵であっても、いずれも描いた人に対して著作権が与えられます。また、前回学んだ産業財産権は出願しなければ権利はもらえませんが、著作権の場合には特別な届け出をしなくても、作品を生み出した時点で権利が発生します。
ちなみに、登録して初めて権利が認められる制度を何というか覚えていますか? - 先願主義!
- 先願主義とは、産業財産権において、一番最初に発明した人ではなく、一番最初に出願した人がその権利を取得できることでしたよね?もし、ぐらみん君同様にごっちゃになっている人は、産業財産権の動画を見直してください。
産業財産権のように、登録して初めて権利が認められる制度を方式主義といい、著作権のように登録しなくても権利が認められる制度を無方式主義と言います。こちらの解説は知的財産権の回でお話していますので、忘れてしまった方はそちらの動画も見直して下さい。
なお、著作物の保護期間は、著作者の死後70年となっています。ちなみに元々の保護期間は著作者の死後50年でした。
A.ミッキーマウスです。
- 著作者の死後50年のままだと、ミッキーマウスの著作権は2003年に消滅する予定でしたが、1998年に著作権法延長法が制定され、著作権の保護期間は原則として「著者の死後70年」となりました。 ミッキーマウスの世界でのキャラクター収入は5000億円とも言われていますが、法律まで変えてしまうのがミッキーマウスの影響力の凄さとも言えるでしょう。
②著作権の分類
- 著作権は、著作物を作成した時点で2つの権利を持ちます。1つは著作者の人格的利益を保護する著作者人格権で、もう1つは財産的権利を保護する財産権です。
分かりやすく説明すると、著作者の「心」を守るのが著作者人格権であるのに対し、「財布」を守るのが財産権だと理解してください。
著作者人格権を簡単に説明すると、自分が作った著作物をどのように扱えるかを決めることができる権利で、大きく3つに分類されます。
著作物を公表するかしないか、するとすれば、いつ・どのような方法で公表するかを決めることができる公表権。著作者名を表示するかしないか、するとすれば、実名かペンネームかを決めることができる氏名表示権。内容を改変されないようにする同一性保持権と細かく分類されます。
例えば、自分が心を込めて作ったオリジナルの漫画作品を勝手にインターネット上に公開されたり、実名を公表されたり、部分的に意図しない内容に変えられたら、とても嫌な気分になりますよね。そういった著作者の「心」を守るのが著作者人格権となります。
ちなみに著作者人格権は著作者だけが持っている権利で、譲渡したり、相続したりすることはできません。
一方、財産権は、著作物を独占的に利用する権利です。例えば、小説の著作者は、他人に干渉されることなく出版、映画化、翻訳することができたり、絵画の著作者は展示会を開催したり、複製して本を出版することができるようになります。
これにより、自分の作品を世に広め、利益を得ることができるようになります。
当然、著作者以外は、これらの権利を有しませんので、著作者の許諾を得ずに、著作物をコピーしたり、翻訳・加工したり、インターネットで公開したり、譲渡や販売などをしたりといった形で利用することは法律で禁じられています。
これらの違法行為は著作権侵害と呼ばれ、最大10年以下の懲役、最大1000万円以下の罰金のどちらか、またはその両方が科せられる可能性があります。
ここでは、具体的にどのようなことを行ってはいけないかを、いくつか例を挙げて説明したいと思います。
1.お気に入りの歌手の楽曲を複製したCDやUSBメモリなどを友達に渡す。
TSUTAYAなどで借りたCDなどの音楽をスマホに入れて自分で聞いて楽しむ分には問題ないですが、それをメディアに入れて他の人に渡すことは著作権侵害となります。
2.見逃したテレビドラマを違法にアップロードされたサイトから見る。
テレビドラマや映画などを違法にアップロードされているサイトがありますが、アップロードするだけでなく、違法と知りながらそれを見るという行為も著作権侵害となります。これはみなさんも映画館に行ったときに「NoMore映画泥棒」を見たことがあると思うので、ご存知かと思います。
3.インターネット上にアップされている他人の写真をSNSの自分のアイコン画像として使用している。
海や夕日、山といった綺麗な風景をSNSのアイコン画像として使っている人がいますが、他の人が撮影した画像などを無断で使用することは著作権侵害となります。 ただし「写真AC」や「ぱくたそ」といった、フリー素材サイトからダウンロードした画像については、そのサイトの使用ルールに違反していなければ使用することが可能です。
4.漫画のセリフをネタバレサイトに投稿する。
漫画の絵は載せず、セリフだけを文字起こしして、インターネットサイトに掲載することも著作権侵害となります。実際、2022年2月3日、「ネタバレサイト」を運営していた会社と代表が、著作権法違法の容疑で書類送検されました。
5.インスタやYouTubeなどで、有名アーティストの歌をアレンジして歌う。
勝手に歌詞やメロディーにアレンジを加えて歌った動画をSNSに投稿した場合には、著作者人格権の1つである同一性保持権の侵害となる可能性があります。また、ここでは有名アーティストとしていますが、有名・無名関係なく、他の人の楽曲をアレンジを加えて公開すると著作権侵害となります。
- 僕、今まで大丈夫だったかな・・・
- 次に、著作権侵害には該当しない例外規定もありますので、こちらもいくつか紹介します。
1.私的利用
先ほど、お気に入りの歌手の楽曲を複製して友達に渡すことは著作権侵害にあたるという話をしましたが、それを自分の娯楽として楽しむ分には著作権侵害とはなりません。
2.非営利目的
入場料や出演料を取らないような文化祭や社内行事などのイベントにおいて、楽曲を流したり、他人が作った脚本で演劇をしても著作権侵害にはなりません。
3.引用
自分の著作物の中に他人の著作物の一部を取り入れることを引用といいます。例えば自分が睡眠に関するブログを書いていたときに、睡眠を研究している学者の論文の一部を紹介するなどです。ただし、出典元を表記したり、改変しないといった一定の引用ルールがありますので、そのルールを守った上で使用するようにしましょう。
4.単なる事実やデータを紹介する。
例えば、講演などで「日本の人口は約1.2億人」や、「白米を食べると太りやすい」などと言うことは著作権侵害にはあたりません。著作物とは著作者の思想または感情が表現された創作物であって、このような単なる事実やデータは著作物とはなりません。
5.保護期間が切れたもの。
著作権は著作者の死後70年間は保護されますが、それ以降は保護されません。そのため、芥川龍之介や夏目漱石といった作家の作品には著作権が無いということになります。
③クリエイティブ・コモンズ
- ここで、著作物に関する用語として、クリエイティブ・コモンズも学んでおきましょう。
クリエイティブ・コモンズとは、作者の意志を反映しながら作品の流通を図るための活動全般と、活動する団体を指します。
クリエイティブ・コモンズの著作権ルールはインターネット時代のための新しい著作権ルールで、著作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするためのライセンスです。
先程お伝えした通り、様々な創作物は著作権法によって保護されており、例外規定を除き、著作者の許可無しでは利用できません。
しかし、これだけインターネットが普及し、情報があふれている現代において、著作者のみが自由に扱えるという規定が著作者側のメリットになるとは限らなくなりました。 - ん?どういうこと
- 例えば、自分の名前を売りたい無名の歌手や、自分の漫画を知ってほしい若手漫画家などは、SNSなどを通じて自分の作品を世に配信しています。
ただ、それを見た人が、著作権法があるために、その作品をシェアしてよいのか?と迷ってしまうと、SNSの爆発的な拡散力を活かすことができません。
つまり、自身の作品をより広く知ってもらうためなら、ある程度著作権を放棄しても構わないと考えている著作者も多いということです。
そこで、著作者の許可する範囲内であれば自由に作品を使用できるようにしたのがクリエイティブ・コモンズです。
クリエイティブ・コモンズは4つのマークにより、利用できる範囲を意思表示します。これを利用すれば、制作した側は自身の許可した範囲内で、インターネット上で作品を広く流通させることが可能となり、利用者側も使える作品の幅が広がるので、双方にとってメリットが生まれます。 - なるほど。
- クリエイティブ・コモンズは、作品を利用する条件を4つのアイコンで表現しています。
クリエイティブ・コモンズを採用した有名なキャラクターといえば、初音ミクですね。
このように初音ミクは、クリエィティブ・コモンズを採用することにより、ファンが生まれやすく、さらにSNSなどでも拡散しやすいというメリットが生まれ、爆発的人気となった代表例とも言えるでしょう。
まとめ
- 著作権とは、学術的または芸術的な創作した作品(著作物)とその作者(著作者)を守るための権利のこと。
- 著作者は、著作物を作成した時点で著作者の人格的利益を保護する「著作者人格権」と財産的権利を保護する「財産権」の2つの権利を持つ。
- クリエイティブ・コモンズの著作権ルールは、インターネット時代のための新しい著作権ルールで、著作者が「この条件を守れば私の作品を自由に使って構いません」という意思表示をするためのライセンスのこと。